白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
「んっ?!」
物件の内見を終え、スーパーマーケット経由で帰宅した夕映。
玄関のドアを開けると、見るからに高級そうな革靴が視界に入った。
―――彼がいるらしい。
重い足取りでリビングへと向かうと、リビングでノートパソコンを開いている彼と視線が交わった。
「おかえり」
「……はい。今日は早くに終わったんですね」
リビングの壁掛け時計は十八時五分前を示している。
「今日は昼過ぎに会合が入ってたから、午後はオフになってる」
「……そうなんですね」
都立病院の一介の医師では『会合』なんてものには無縁だが、大病院の御曹司ともなると、会合だけでなく色々ありそうだ。
「夕食はお済ですか?」
「いや、まだだけど」
「手の凝った料理は作れませんけど、簡単なものでよければ」
「ラーメン?」
「はっ、まさか!さすがに二連チャンでインスタント麺でおもてなしはしませんよ」
「俺は別にインスタント麺でも構わないけど」
この時間にいるということが、そういうことなのだと示唆しているようなものだ。
食材を買って来て正解だった。
自分の分のお弁当だけ買って来てたら……と思うと、ほんの少し背筋がゾクッと震えた。
「お仕事ですか?」
「……ん~。医局にいると、ついつい処置やオペに呼ばれるから、学会用とか調べものは自宅ですることにしてて」
……自宅。
そうだ、ここも彼の自宅だ。
今は自分が住まわせて貰っているからスコーンと失念していたが、ここも彼の所有物だ。
パソコンに向かう采人は、ネクタイを緩め、Yシャツのボタンも外し、腕まくりをした状態で真剣な顔つきでパソコンに向かう。
遠目でもイケメンなのは変わらないが、普段の澄ました表情や妖艶な眼差しとは違い、真面目な仕事ぶりに思わず見惚れてしまう。