白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
ガチャガチャ。
ダンダンダンッ、ダンダンダンッ。
荒々しくドアがノックされた。
「真子、そこにいるんだろ?何か、あったのか?」
「あ、則くん来た」
則くんこと、上杉 則道 (三十二歳)。
都立がんセンターの麻酔科医。
アシンメトリーのボブカットで、ダークトーンの髪にグリーンのメッシュを入れているお洒落な真子に一目惚れし、三年かけて口説き落としたイケメン麻酔科医だ。
見た目だけでなく、性格もクールでちょっとミステリアスなところがある真子だが、勉強一筋だった則道にはそれがビビッと刺さったらしい。
ほんわか癒し系の則道が、なりふり構わず猛アタックし続けたくらいだ。
「……もう平気、ありがと」
つけ睫毛も取れ、手の甲が真っ黒になるほど崩れたメイク。
壁に取り付けてある鏡に映る自分の姿に、思わず笑みが漏れ出した。
「すっっっごっ、ホラー映画出れるよ」
「主演女優でね」
「フフッ、則先生を入れてあげて、心配してるよ」
「いいの?」
「うん、もう平気」
突然奥さんが消えたら、心配になるのは当たり前。
だって、今日は結婚式なんだから。
真子が控室のドアを開けると、顔面蒼白の則先生が飛び込んで来た。
そして、私を見るや否や、『えっ、誰ッ?!』と驚愕して腰を抜かしそうになった。
花嫁を軟禁した容疑?に近い私は、これまでの事情を説明して、メイクを落とした。
二人は今夜の便でハワイへと、新婚旅行の予定。
だから、何の心配事もなく見送るのが私の使命だ。
「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だってば」
「夕映ちゃん、何かあったら遠慮なく電話していいからね!」
「則先生、それは野暮ですよ。……ハネムーンベイビー楽しみにしてます♪」
「っっっ」
「ちょっと、夕映っ」
「いいじゃない、もう夫婦なんだから」