白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
(采人視点)

医師会の会合を終え、帰宅途中の采人の視界に思わぬ人物が飛び込んで来た。

「誰だ、あの男」

交差点での信号待ち。
直進車線にいる采人の車の右隣りに、右折車線で停車している白いセダン車の助手席に座る夕映。
スーツ姿の男が運転席に座り、笑顔も交えながら親しそうに会話している。

すぐ隣りの車線にいるのに、夕映は采人には気付いていないようだ。

都立江南病院のERスタッフではない。
夕映のことを調べる際に、ERスタッフのことも調べていたのだ。
自分より遥かに同じ時間を共有する同僚を、采人が調べないはずがない。

采人の脳内にインプットされているスタッフには居ない顔。
元彼でもないのを確認した采人は、ハンドルを握る手に力が入る。

「何だよ、俺にはあんな風に笑ったりしないのに…」

朗らかに笑う夕映の横顔をガン見し、采人は苛立ちを覚えた。



自宅で学会の論文でも仕上げようと思っていたが、夕映が見知らぬ男とデートしてることに腹が立ち、采人は夕映が住むマンションへと。
リビングでパソコンを開き、仕事モードに切り替える。

約二時間が経った頃、夕映が帰宅した。

「おかえり」
「……はい。今日は早くに終わったんですね」

俺がいることに驚きつつも、表情は至ってクールな感じだ。

あの男と食事はして来なかったようだ。
エコバッグから買って来た食材をキッチンに出し始めた。

俺が居座ってるからだろう。
気を利かせて、夕食を作ると言い出した。

当然だ。
俺という男がいるのに、他の男とデートして来たんだから、料理の一つや二つくらい作って貰わなきゃ。

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