白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

料理は苦手だと言っていたが、野菜を切る音は結構軽快だ。

「今日は早番だったの?」
「……はいっ?何か言いました?換気扇の音でよく聞こえないんですけど」

広めの間取りということもある。
リビングからキッチンまでの距離が結構あるうえ、何か炒め物でもしているのか、換気扇がフル稼働している。

采人は空のカップを手にして、キッチンへと。

「今日は早番だったの?」
「……はい」

肉を焼きながら、俺の質問に答える夕映。
手元と俺に交互に視線を向ける。

「で、仕事上がりで浮気して来たってわけ?」
「……へ?」
「俺、見たんだけど。前髪アップにして固めてる男と車中でイチャついてるの」
「……ッ?!」
「俺という男がいるのに、堂々と浮気するとはな」
「っ……、浮気とかそんなんじゃないですよっ!」
「へぇ~」

シンク台に寄り掛かり、采人は冷めた目を夕映に向ける。

「今日初めて会った人で、本当に浮気とかそういうのでは……って、私は何で言い訳してるんでしょうか?」
「フッ、俺に聞くか?」

自分で言っておきながら混乱している様子を目にし、ほんの少し心が軽くなる。
夕映が嘘を吐いているようには見えないからだ。

「じゃあ、奴とはどんな関係?」
「へ?」
「デートじゃないなら、何だったの?」

あんなにも親しそうに会話してて、デートじゃないなら何なんだよ。

実際プロポーズ的なことを伝えたとはいえ、彼女から承諾を貰ったわけじゃない。
外堀を固めるみたいに、俺との『結婚』以外に選択する余地はないと思わせるように仕向けてはいるが、正直なところ、簡単に落ちる女だとは思ってない。

だからこそ、手に入れたい。
他の男ではなく、この俺が。

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