白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
(采人視点)

思ってたよりまともの料理がテーブルに並ぶ。
最初に作って貰ったラーメンのインパクトが大きすぎるからなのか、本当に料理が苦手なのだと思っていたが、料理をする時間がないだけで腕はあるらしい。
そりゃあそうか。
両親が有名なうどん店を経営しているんだから、料理の基礎はしっかりと仕込まれているのだろう。

ダイニングテーブルに向かい合う形で座り、お互いに『いただきます』とぎこちない声を口にする。
本当はこんな空気の中、食事をするのは嫌なんだが。
さすがに作って貰った手前、無視するのも悪いと思えて。

「お口に合いますか?」
「……ん、美味しいよ」

お世辞抜きに、本当に旨い。
出汁から取るほど本格的な料理というわけではないが、ちゃんと塩梅もよく火の通り加減もちょうどいい。

「料理は苦手だなんて言ってたけど、ちゃんとしてるよ?」

幾ら臍が曲がっている状態とは言っても、食事の感想とは別物。
そこはしっかりと伝えたい。
だって、俺のために作ってくれた料理なのだから。

「ズボラ料理ですよ」
「十分だよ。仕事だってして来てるんだし」

早番だと言っていたから、今日は早起きしたはずだ。

「食べながら聞くのもどうかと思うんですけど、……結婚、本気なんですか?」
「ッ?!当たり前だろ。好きでもない女に指輪なんてあげるか、普通…」
「……え?」

俺の言葉に豆鉄砲でも喰らったかのような表情を浮かべる夕映。
指輪を渡したことも、結婚したい意思を伝えたことも本気だとは思ってなかったようだ。

この俺が、こんなにも軽くあしらわれるとはな。
くそっ、逃がして堪るか。

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