白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

八月上旬。
真夏の太陽が照りつける日曜日の昼過ぎ。
夜勤明けの夕映は眠い目を必死にこじ開け、ヘロヘロの体に鞭を打って、ハイヒール姿でとある場所へと向かう。

着いた先は四つ星ホテル。
今日は医大時代の同級生が結婚式を挙げる。

二十五歳を過ぎたあたりから、毎年数回こうして結婚式に呼ばれる。
次々に結婚していく友人知人に包んだご祝儀の合計は、夕映の月給を軽く超える。

医師だから高給取りというわけではない。
OLに比べたら高給かもしれないが、その給料の対価として青春時代を勉強に費やして来た。
だから、決して高いわけじゃない。
しかも、都立病院の勤務医の月給は、世間一般の人が思う医師の給料の半分ほどだ。

「黒瀬?」

受付でゲストブックに記名していると、突然真横から名前を呼ばれた。

「赤石くん?」
「卒業以来だから、五年ぶり?」
「…そうだね」

都立大学の医学部を卒業すると、同期は大抵都内の都立病院に振り分けられて就職するのが一般的。
けれど、彼は違った。
父親が勤務しているアメリカの大学の医学部に編入したのだ。
国が違えば法律や医術も違いがある。
彼は更なる高みへと進むために日本を発ったのだ。

「まだアメリカにいるの?」
「いや、先月日本に帰って来た」
「そうなの?」
「ん」
「じゃあ、こっちの病院に勤務するの?」
「もうしてるよ?」
「あっ、そうなんだ」

ゲストブックに書き終えた夕映と赤石は、他の同期たちが集まっている場所へと向かう。

「黒瀬ってことは、まだ結婚してないんだ?」
「……ん」

ゲストブックに記入した名前を見たのだろう。
この歳になると、会う人会う人に聞かれる質問だ。

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