白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

失恋して数日。
今日も仕事一筋の一日が始まった。

都内某所にある講習会場に到着した夕映は、真ん中辺りの席に座る。
今日はこれから、災害時における症例別トリアージの講習がある。

救急専門医の夕映は、資格を取得してまだ日が浅い。
三年間の実務研修を積んでいるとはいえ、災害の現場に駆り出されることは殆どない。

救命救急医には『ER型救急』と『救命型救急』の二種類に分けられる。

ER型救急とは、夕映が勤務する都立江南病院のように、救急外来に運び込まれた患者の重症度や緊急度を推し量り、必要な診療科へ引き継ぐことを目的としている。
どんな状態なのかを見極め、適切な処置を施すことが最大の職務で、患者の治療をするわけではない。

それに対し、救命型救急とは、ER型救急から運び込まれた重症患者を対象に診断や手術、集中医療など、様々な医療行為を総合的に行うことを目的としている。
これに該当するのが、神坂総合病院のようなあらゆる最新の医療機器を備えた大病院だ。

都内でも一、二を誇る大病院の神坂総合病院。
腕の立つ医師がゴロゴロいると噂では聞く。

系列の都立医大を卒業した夕映は、そのままエスカレーター式に都立病院に勤務している。
医学部時代からの友人も多いし、尊敬する戸部医師の下で働けることに生きがいを感じている。
他で働いてみたいなど考えたこともない。

けれど、都の予算問題もあり、最新設備がフルに揃っているというわけではない環境下で、常に最新の医療処置を施せるとは言い難い。
だからこうして少しでも知識を増やし、その差を埋めようと努力だけは惜しまないようにしている。

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