白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

くっきりと刻まれた噛み痕を見据え、朧げだが記憶が徐々に蘇る。

ゆらゆらと心地いい揺れを感じながら、ホワイトムスクのような甘みのある清涼感の香りに包まれ、その香りを確かめるように顔を持ち上げた。
すると、不快指数MAX状態の彼と視線がバチっと交わったのだ。
その威圧感がいつもの紳士的な彼とは別人で、思わず委縮したのを思い出した。

酔い潰れた私を迎えに来てくれ、家まで抱きかかえて運んでくれたまではいいのに、無言のままベッドに乱雑に放られた。
そして、動揺する私をベッドに張り付けるみたいに両手の自由を奪い、無理やり唇を奪った。
始めこそ乱暴ではあったが、次第に優しく、甘く痺れるようなキスに溺れ、お酒の手助けもあって、思考が完全にどうかしてたんだと思う。
その後のことは記憶が曖昧で、所々の記憶しかない。

した?
してない?
……分からない。

背中のファスナーを下ろされた記憶はあるけれど、ブラを外された記憶はない。
スカートの裾から手が這い上がる記憶はあるのに、ストッキングもショーツも脱がされた記憶がない。

けれど、確実に覚えているのは、無意識に漏れ出した声に対して『もっと聞かせて』と煽られ、羞恥で彼の首筋を思いきり噛んだ。

恋人ではないし、同僚ですらない、家主と借主の関係。
親友というには無理があるし、知人というのは距離感が近すぎる。

そんな複雑な関係なのに、彼には一番隠しておきたい羞恥なプライベート部分がスケルトン状態。
更に『女』の部分も暴かれそうで、酔い潰れながらも必死に抵抗した結果だ。

「ごめんなさい。……その、噛み癖があるわけじゃなくて、恥ずかしくて咄嗟に噛んでしまったのだと思いますっ」

今更言い訳してもどうにもならないが、三十路を前になけなしのプライドが…。

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