白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
(采人視点)

ショッピングモール内を見て廻っていた、その時。
アパレルショップ内に設置してある鏡にチラッと映った人物に、心臓がドンッと強打された気がした。

奴だ。
色付きサングラスをしているから分かりづらいが、外科医の動体視力を見くびんじゃねぇぞ。

術中の僅かな血管の破れも見逃せない外科医。
采人は一度記憶したものは決して忘れない。
見極めたり判断する能力は天賦の才といってもいい。

当初の予定では、一日のデートを通して彼女の好みを知るのが目的だったが、奴が近くにいると知ってからは、彼女との仲を思い知らせることに注力した。

マンションから俺らをつけて来たのだろう。
じゃなければ、偶然見つけたとは言い難い。

幸いのことに、夕映は奴が近くにいることに気づいてない。
ただ単に俺が言い寄ってるくらいにしか思ってない。

手を掴んでも、顔を近づけても嫌がる素振りは見せない。
今日一日デートに付き合うという条件だからなのかもしれないが、それが奴にはいい薬になるだろう。

モールを後にし、電話で予約した店へと向かう。
ルームミラーで確認すると、二台後方に奴の車を確認。
ドライブレコーダーにも録画されているだろう。
後で弁護士に証拠として渡さねば。

「神坂さんのお休みの日って、いつですか?」
「采人、ね」
「……采人さんの公休日は決まってるんですか?」
「救急診療の外科医ではないから夜勤は殆どないけど、土日出勤なことも多いよ」
「じゃあ、私と同じ変則的な勤務なんですね」
「日中はほぼオペだし、それ以外は回診とカンファレンスが殆どかな」
「回診!懐かしい響き」
「ER専門だと、回診は無いもんね」
「はい」

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