非道な男が愛に溺れて、酔いしれて
仮面の男
「──不知火様、お連れ様がお待ちですよ」
会場に足を踏み入れた瞬間、甘いマスクの男が私の耳元でそう囁いてきた。
「あら、そうなの。わざわざありがとうね」
私はそう返して、その男の横を颯爽と通り過ぎた。
……そうか、もう慈恩は待っているのか。
それなら早く行かなくちゃね。
「アオイ、行くわよ。さっさと歩きなさい」
「……っも、申し訳ありません。愛花、さま」
「ふんっ。ほんと、のろまな子」
私の言葉に、少し斜め後ろを付いてくる男の肩が分かりやすく下がる。
いちいち項垂れていても仕方ないのに、この男は本当に学ばない。
私はもう1度鼻で嗤って、赤いハイヒールのとんがった部分を床に打ち付けて慈恩の待つ場所へ向かった。
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慈恩は私の昔ながらの仕事相手だ。
性格良し、清潔感あり、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能。
全てに置いて彼は万能なのだ。
何をとっても他人に引け目を感じさせない慈恩が、私は好きだ。
もちろん、あくまでバディとして。
「慈恩、もう来てたのね。もう少し遅くでもよかったのに」
重厚な扉が開かれ、その中へ入って行く。
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