非道な男が愛に溺れて、酔いしれて
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舞踏会の開始前にトイレに行った。
アオイには付いてこなくていいと言い付け、そのままこっそりと家に帰るつもりだった。
もう疲れたのだ。早く休みたい。
だけど、それは叶わなかった。
仮面舞踏会を主催している藤宮夫婦の邸宅から出ようとしたところで、ある男性とぶつかってしまったのだ。
「……っ、すみません」
咄嗟に謝った。相手からの返事はない。
「………」
訝しく思い相手を見上げると、そこには不機嫌なヅラをした男がいた。そのまま何も言わずに
「……
「……お前、誰?」
私からの質問を質問で返した挙句、初対面の相手にお前呼ばわりだなんて。
天馬伊吹とは、こんなにも落ちぶれた人物だったのか。
少しだけがっかりだ。
だけど、相手は私からがっかりされたところで痛くもかゆくもないらしい。
小さく舌打ちをして、私のすぐ横を通り過ぎようとした。
「……っ待って」