私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
「噂よ、噂。御曹司に近付くと大ケガするんですって。女避けかもしれないけど、逆に興味持つ人もいそうよね」
「今どき呪いって」
「九守さんは現実的なのね」
「呪いよりお金です」

「お給料いいものね」
「シフト制で完全週休二日制、長期休暇あり、独身寮は家具付きワンルーム、食堂あり、午前0時までのコンビニもあって完璧です」

 部屋の作りは1Kだ。家賃があるし洗濯機や冷蔵庫もレンタルだが、普通に借りるより安い。食堂も格安だ。

「でも管理が厳しくて怖いわ。契約のときに指紋をとられたし、メイド服はICチップつきで居場所がわかるとか」
「不審者対策も万全ってことですね」

 スキャナみたいな機械で両手の指紋をとられた。不快だが月給50万のために耐えた。そもそも犯罪をする予定もない。

「九守さんは恋人は?」
「いません」
 だから住み込みでの応募も気楽だった。
 中学三年生で妹が生まれたとき、父の会社が倒産した。高校、大学はバイト三昧で家事もして、恋をする暇がなかった。
 一鈴は最後の一口を終え、ごちそうさまです、と両手を合わせた。



 本邸の自室に戻った穂希は大きく息をついた。
 婚約者候補と過ごす時間を作れ、と両親に言われていた。気が合う女性との結婚を、との両親の配慮だが、迷惑な話だった。
「九守一鈴……やっと実物に会えたな」
 タブレットに映る履歴書を眺め、穂希は呟いた。



 メイドと従僕は担当やシフトによって出勤時間がばらけていた。
 料理メイドは朝が早く、掃除担当は滉一と穂希の出勤後、8時過ぎに屋敷に上がる。勤務は夜10時まで、実働は8時間に調整されていた。深夜の呼び出しには別途手当が出る。
 通いの人たちは車で通用門から入って地下駐車場に停め、そこからは徒歩だ。
 一鈴は別邸の担当になり、掃除と雑用を任された。

 穂希は毎日来るわけではないのでほっとした。本邸より穂希との遭遇率が下がる。いっそまったく会わない場所の担当になりたかった。
 自分以外の新人が40代である理由がわかった気がした。彼の守備範囲外なのだろう。
 だったら私も不合格にしたらよかったのに。
 思って、すぐに首をふる。
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