私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 見渡す限りの雲だった。どこまでも続く雲に、感嘆の息がもれる。
 カシャ、と音がして振り返ると、穂希が一鈴に向けてスマホをかまえていた。
「ひどい! 勝手に!」
「お互いさまだ」
「消してください!」
「嫌だ」
 穂希はすぐにスマホをポケットにしまった。

 霧がまた流れて来て、すべてを包み隠した。
 体を震わせると、穂希は上着を脱いで一鈴にかけた。
「女性は体を冷やしたらダメだろ?」
 穂希が微笑む。
 一鈴は彼の上着の端をぎゅっとにぎりしめた。
「優しくしないでください」
「女性には優しくするものだ」
 はあ、と一鈴はため息をついた。
 鈍感さがいっそ憎らしい。

「行きましょう。私は充分です」
 上着をはぎとり、彼に返す。受け取った彼は手を差し出すが、一鈴はその手をとらない。
 穂希は苦笑し、車に歩き出した。
「観光開発部で遊覧飛行があって、開会式に俺も呼ばれている。君と一緒に乗りたいな」
「すごいですね」
 ヘリコプターで遊覧飛行か。チャーターするのにいくらかかるんだろう。
 一鈴はとぼとぼとついて歩いた。



「せっかく来たんだ、富士山を一周するか」
 一鈴は目を丸くした。
「何日かかるんですか?」
「走るだけなら3~4時間だ」
「何キロで飛ばす気ですか!?」
「法定速度は守るよ。君は富士山を大きく考え過ぎだ」
「だって日本一ですよ?」
 穂希は苦笑した。
「とはいえ完全に一周だと帰りが遅くなる。インターまでとして実質半周かな。いいか?」
「ぜんぜんいいです!」
 一鈴が答えると、穂希は車を発進させた。
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