私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 山道を下ると霧は晴れた。
 スカイラインを西へと走る。
「霧が晴れてよかったですね。事故ったら五億がパーです」
「君は金額にこだわるな」
「だって走る五億ですよ!」
「そこまでしないよ」
 穂希は苦笑した。

「……嶌崎さんが出て行くそうだ。君によろしくと言っていた」
 一鈴は佳乃たちを思い浮かべた。心が結ばれたなら、あの屋敷に残る必要はないだろう。
「婚約の件、延長できないか? 料金は払う」
 思いがけない言葉に一鈴は驚いた。
 運転している彼は無表情で、なにも読み取れない。
「拒否権、ありますよね?」
「断るのか」
「そうです」
「気が変わったらいつでも言ってくれ」
 一鈴は彼の気持ちをつかめなくて窓の外を見た。
 茶色の木肌が見えるばかりで、それ以外はなにもわからなかった。



 リビングのテーブルにアクセサリーの材料を並べ、一鈴はため息をついた。
 頭を占めているのは昨日の外出だ。
 つい、穂希の写真を撮ってしまった。抱きしめられ、どきっとした。
「ばかみたい」
 自分はただの開運グッズだ。延長の申し出は両親の説得が不調だからだろう。
 他人の恋には無責任に口出しして、自分はこのありさまだ。

 スマホが鳴ったので見ると、穂希からだった。
「はい」
「USBを忘れて来た。会社に届けてくれ」
「メイドさんに頼めばいいのでは?」
「予定外に煩わせたくない。君なら時間があるだろ?」
 その通りだった。
「時任がそこまで届けにいくから、頼む」
 返事を待たず、スマホが切れた。
「人の気も知らずに」
 スマホにむかって、一鈴はつぶやいた。
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