私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~



 大きな黒い外車に乗せられ、一鈴は彼の会社に向かった。
 ビルは大きくて美しかった。光沢のあるグレーの壁に規則正しく窓が並び、地上には手入れされた木々が植えられている。
 スーパーって儲かるのかな、と一鈴は眺めた。

 受付で穂希に呼ばれたと言うと、入館証を渡された。
 よくあるオフィスの内装だった。壁は白く、四角い水色のカーペットが敷かれている。
 穂希の部署は男性ばかりだった。パソコンに向かう人、電話をする人、さまざまに仕事をしていて活気があった。
 彼は奥の席にいた。
 一鈴に気付き、入って来いと合図する。

「失礼します」
 小声で言って、一鈴は入った。
 つい、普通の服装で来てしまった。カジュアルすぎて周りから浮いている。
 穂希の席に寄って、USBを差し出した。
「ありがとう。助かった」
「ロビーで良かったのでは」
「職場を見てもらいたかったんだ」
「子供に職場を見せる父親みたいですね」
 むすっとした一鈴に、彼は苦笑した。

「売り上げの悪い店があってね」
 穂希は受け取ったUSBを机に置いた。
「掃除をすると運が良くなると言うから、徹底させてみた。俺も一緒にやったよ」
 多美子に知られたらまた怒られそうだ。お店の人たちもさぞ慌てただろう。
「それが月曜なんだが、三日で売り上げが上がった」
「たまたまでしょう」
「徹底した掃除で店員の意識が変わったんだろう。君のおかげだ」
 穂希は笑う。

「君の言う通りだ。悪いことを見たら悪いことばかり、いいことに目を向けるといいことにたくさん気が付く」
 彼の笑顔が晴れやかで、一鈴はまぶしてく目を細めた。
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