私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
***

 帰りの車中でスマホが鳴りった。
 コスモの名前が表示されて、どきっとした。
「一鈴です」
「コスモだけど」
 それだけ言って、コスモはためらうように黙った。

「最近、忙しかったですか? あ、私は最近自転車でコケちゃって、ドジですよねえ」
 一鈴はへらへらと笑った。
「会って話しがしたい」
 コスモの改まった口調に、笑いがひっこんだ。
「今、家に帰っているところです。着いたら連絡します」
 通話を切ると、暗くなった画面に自分が映った。胸元のダイヤがきらりと光る。
 一鈴はぎゅっとダイヤを握りしめた。

***

 野々田敬都はいい気分で駅へ向かっていた。
 取引先に向かう途中だった。
 周りは男ばかりで大変だ。気が利かないし、見下す人もいるし、妙に媚びて来る男もいる。
 だが、女性を寄せ付けない御曹司が、ただ一人自分を選び、部署に呼んでくれた。
 能力を評価されただけではないと、そう確信していた。

 先頭にならんで電車を待つ。
 スマホを出して美容情報をチェックした。
 自分のためでもあるし、いい男を捕まえるためでもある。
 そして、あと少しで努力が実りそうだ。
 電車が到着する、と案内放送がかかった。

 夕食はサラダだけにしよう。そのあとはヨガをやって……。
 ライトをつけた電車が近付いて来る。
 なにげなくそちらを見たときだった。
 どん! と後ろから衝撃があった。
「きゃああ!」
 敬都はホームの下に転落した。
 電車が急ブレーキをかける。車輪が耳障りな音を立て、ホームに響いた。
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