私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 材料と道具をかたづけ、部屋を出ようとしたときだった。
「大変です!」
 玉江がとびこんでくる。
「また、呪いが……人が!」
 一鈴とコスモは顔を見合わせた。

***

 受付からの電話を受けて、穂希は思わず立ち上がった。
 唯一の女性部下がホームから転落したのだという。
 みながせわしなく働くフロアで、自分の周囲だけ気温が下がったかのようだった。
「無事なのか?」
「退避スペースに入ったので打ち身で済んだそうです。念のために救急車で病院に運ばれました」
 病院名を聞き、穂希はすぐに向かった。

 呪いか。
 穂希はタクシーの車中で顔を険しくした。
 今まではもっと近しい立場、あるいは近付こうとした女性にばかり不運が訪れていた。
 野々田敬都は仕事の接点しかなく、最小限に抑えていた。
 呪いの範囲が広がった?
 直前の変化といえば、一鈴が会社に来たことだけだ。
 まさか一鈴が本当に? コスモと佳乃が被害に遭わなかったのは仲良くなったから?

 穂希は鏡のペンダントを取り出し、眺める。
 自分の家のことはよくわかっている。財産があり、呪いを知っていても近付く女もいた。
 偽装婚約を断ろうとした一鈴も、結局は報酬につられた。
 まさか。
 思い付いたそれを認めたくなくて、穂希は口の端をゆがめた。

***

 玉江によると、穂希の部下の女性がホームに転落してケガをしたのだという。
 あの美人だ、と一鈴はすぐに気が付いた。
 なぜこのタイミングで。
 また一鈴がやったと周りに思われるのではないだろうか。
 コスモを見ると、難しい顔をして玉江を見ていた。
 せっかく彼女の気持ちが浮上してきたのに、完全に出鼻をくじかれた。
 それでも、と一鈴はぐっと床をにらみつけた。
 ここでやめたら自分たちの負けな気がした。
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