私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
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一鈴が帰ったあと、時間をおいてからコスモも病室を出た。
気分がいいから街をまわりたいと思ったのは本当だ。
タクシーで駅前に出た。
たくさんの人が行き交う。
こんなに気分がいいのは久しぶりだ。
いつ以来だろうか、と考える。
なんとなく、子供のころを思い出した。
初めて馬に乗ったときは怖くて泣いた。
少しずつ乗れるようになるとうれしくて、もっと次の技術を習得しようとがんばった。
馬は彼女を外見で差別しないし、親身に接すると懐いてくれた。
馬房の掃除は大変だが苦ではなかったし、ブラッシングをすると馬が機嫌よく鼻を鳴らすのはかわいかった。
「最近だって楽しいことあったのに」
思わず笑う。
明日はまた馬に乗ろう。
そうだ、一鈴さんも誘おう。
乗馬を覚えてもらおう。
並んで走ったらきっと楽しい。
うきうきと歩くコスモは、だから後ろから近づく人物に気が付かなかった。
ましてや、その人物が重い鉄の棒を振り上げているなんて、知る由もなかった。