私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~

***

 一鈴が帰ったあと、時間をおいてからコスモも病室を出た。
 気分がいいから街をまわりたいと思ったのは本当だ。
 タクシーで駅前に出た。
 たくさんの人が行き交う。
 こんなに気分がいいのは久しぶりだ。
 いつ以来だろうか、と考える。

 なんとなく、子供のころを思い出した。
 初めて馬に乗ったときは怖くて泣いた。
 少しずつ乗れるようになるとうれしくて、もっと次の技術を習得しようとがんばった。
 馬は彼女を外見で差別しないし、親身に接すると懐いてくれた。
 馬房の掃除は大変だが苦ではなかったし、ブラッシングをすると馬が機嫌よく鼻を鳴らすのはかわいかった。
「最近だって楽しいことあったのに」
 思わず笑う。

 明日はまた馬に乗ろう。
 そうだ、一鈴さんも誘おう。
 乗馬を覚えてもらおう。
 並んで走ったらきっと楽しい。
 うきうきと歩くコスモは、だから後ろから近づく人物に気が付かなかった。
 ましてや、その人物が重い鉄の棒を振り上げているなんて、知る由もなかった。
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