私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 滉一が時任にうなずく。時任がドアを開けると、玉江がうつむいて立っていた。
「入れ」
 滉一に言われ、玉江は中に入る。
 直後、がばっと床に手をついた。
「申し訳ございません! ケーキに針を入れたのは私です!」
 驚愕した一鈴は、穂希に肩を抱き寄せられた。温かさが妙にたのもしかった。

「一鈴様がおかわいそうで、被害者になったら同情されると思ったのに、爽歌様に配られてしまって。でもちゃんと、食べてしまわないように、すぐに見つけられるようにしたんです」
「ご自身がなにを言っているか、わかっていますか?」
 多美子は冷たく玉江を見下ろす。
「はい。退職願いをもってきました。懲戒解雇でもなにも言いません」
「本当に? なにかの間違いよね?」
 一鈴は信じられない気持ちで言う。

「一鈴様、お役に立てなくて申し訳ありません。お許しください」
 一鈴は眉を寄せた。ひっかかる言い方だった。
「和久保さん?」
「お、お許しください!」
 玉江は震えて頭を地面につけた。
 まるで一鈴を怖がっているかのように。
 恭子が彼女を睨む。
「あなた、卑怯なことをするのね」
「私はなにも」
「じゃあなんで怖がってるの。あなたが脅したのね!」
「私の独断です!」
 玉江が再度、叫ぶように言った。

「かわいそうに、顔をあげて」
 恭子が玉江のそばにひざをついた。
「あはははは!」
 突如として一鈴は笑いだし、周囲はぎょっとした。
「これじゃ信じてもらえないですねー。大丈夫、問題ないです。出て行きますから」
「大丈夫じゃない」
 穂希が言う。が、一鈴は笑いながら肩にある彼の手をはずした。
 肩が寒くなった。
 心まで寒くなったようで、一鈴はまたへらっと笑った。
「明日、必ず」
「ダメだ」
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