私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
「これ、お返しします」
 五千万を支払う覚書だった。
 偽装婚約の契約書はどこを探しても見つからなかった。滉一に送付された契約書は、一鈴から盗まれたのだろう。玉江ならチャンスがあったはずだ。
「これもお返しします」
 一鈴はペンダントを外した。
「それは持っていてくれ」
「でも」
「……給料の一部だと思ってくれ」

 一鈴は手に持ったペンダントを見つめる。
 そろり、と風がすりぬけていった。
 冷たい風だった。
 一鈴はぎゅっとダイヤを握りしめた。
「では、ありがたくいただきます」
「同じではないんだ」
 目をそらして、彼は言った。

「ほかの人に贈ったものはダイヤのランクを下げた。君が特別だという意味だ。だから」
「あはははは!」
 一鈴はことさら大きな笑い声をあげて遮った。
「見た目じゃわからないですよ! こちとら素人です、宝石商じゃあるまいし!」
 へらへらと笑う。

「すりこみ効果って知ってます? インプリンティング。卵からかえったひよこが初めて見る動くものを親だと思う効果」
「君はなにを言いたいんだ」
「運転手さんが待ってるんで、行きますね! って車が一台しかないですけど!」
 穂希はため息をついた。
「わかった。ここは俺が引こう」
「わかってくれたならいいです」
 車中では、一鈴は会話を拒むように一方的にしゃべった。
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