私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
平日のファミレスは客が少なく、暇だった。
九時に仕事を終えた一鈴はバックルームから裏口を出た。
表の道に出ようと駐車場に出ると、見たことのある奇妙な車があった。
車のドアが上に開いた。
中から穂希が降りて来る。
一鈴はとっさにバックルームに戻ろうとする。が、一足早く穂希が一鈴の腕を掴んだ。
直後、穂希ははっとしたようにその腕を離した。
「いきなり女性の腕をとるなんて、失礼した」
他人行儀な謝罪に、一鈴の胸がちくっと痛んだ。
「あはは! もっと失礼なことしたことあるくせに!」
無理矢理笑った。
明かりがあっても駐車場は薄暗い。ぎこちなさはきっとごまかせるはずだ。
「爽歌さん、呪いの影響は大丈夫ですか?」
一鈴は明るく聞いた。
「呪いなんてないんじゃなかったのか」
穂希はからかうように言った。どこか、ほっとした雰囲気があった。
「穂希さんが気にしてたから、言っただけです」
言えない。呪いの正体が穂希の母ではないかと疑っているなんて。
「ペンダント、つけてないんだな」
「今日は仕事でしたし、もう婚約者のふりをしなくてもいいし」
胸元を押さえて一鈴は言う。
「俺には君が必要だ」
「私はお守りじゃありません」
「わかってる」
「わかってない」
一鈴は目線を地面に落とした。夜のアスファルトはいっそう黒く、一鈴を飲み込もうとしているかのようだった。
一方の穂希は外灯に照らされて、まるでスポットライトを浴びているかのようだった。
「俺は君が好きだ。君の強さも、なにもかも」
一鈴は呆然と彼を見た。
それは言ってはならないことだ。
彼は爽歌が好きなはずで、爽歌も彼を好きなのだから。
視線がからみ、胸が高鳴る。が、一鈴は目をそらした。