私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
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碧斗はへらへら笑う姉を見て、陽太にこそっと耳打ちした。
「ねえちゃん、おかしくない?」
「おかしい」
ことさら明るく振舞って、それがぎこちない。
陽太はもどかしかった。
一鈴は物心ついたときから自分たちの面倒を見てくれていた。自分は弟妹のみんなより恵まれていたから、裕福だったときに恩恵を受けているから。そう言っていた。
まるで罪滅ぼしだ、と陽太は思った。
もう自由に、自分の幸せを求めていいのに。そうしてほしいのに。
陽太は一鈴のスマホの待ち受けと駐車場の車を思い出す。
あんな珍しい車、偶然のわけがない。
あのとき、男は一鈴を抱きしめていた。
一鈴は泣いていた。
セクハラなのか失恋なのか。おそらくは失恋だ。
どっちにしても腹が立つ。
「次にあの男を見たら一緒に殴ろうぜ」
「嫌だよ。犯罪じゃん」
碧斗はあきれたように答えた。
***
莉衣沙から会いたいと連絡をもらった一鈴は、退院したら、と返して時間を稼ごうとした。
心の整理ができておらず、今は会いたくなかった。
だが、莉衣沙からすぐに、退院した、と返信が来た。
まじか。
断る理由をなくした一鈴は、シフトが休みの日なら、と返す。
莉衣沙からは「迎えを送るから絶対に来て」と返って来た。
逃がすまい、という気迫を感じて、一鈴は観念した。
いつぞやと同じリクシャスが迎えに来た。せめてもの復讐に、黙ってマッサージ機能を使ってやった。
連れて行かれた先はホテルだった。
フロントに行くと、係の女性が一鈴を案内してくれた。
エレベーター自体がそのフロアへの直通だった。
女性が部屋のドアをノックする。と、中から現れたのは佳乃だった。