私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
「だからといって、閉じ込めますかね」
刑事が答える。
一鈴の頭に一匹だけのシーサーが浮かぶ。その意味は幸せを『閉じ込める』『逃がさない』だ。
逃がさない。穂希を。
まさか。
ぞっとして、どきどきした。
でも、爽歌は突き落とされて溺れて死にかけた。
警備員が通りかかって助けられたというが、偶然だろうか。
巡回は時間が決まっている。その時間を狙って橋から落ちれば。
だが、防犯カメラに映らないようにするには。
落ち葉がはりついたのは偶然だろうと穂希は言った。本来は映ってもバレないようにしていたのだろうか。
爽歌ならば人を雇い、莉衣沙やコスモを襲わせることもできる。
待って、と一鈴は自分に制止をかける。
恭子を怪しんでいたのに、ドラマの言葉で爽歌を疑うなんて、単純すぎる。
一鈴はドラマを見つめる。
冷静に、状況と証拠を見て判断していく主人公。
必要なのは、証拠。
一鈴はため息をついた。
自分にはどうしようもない。証拠を集めるなんてできない。
もう来ないで、と穂希に言った身だ。
あなたの婚約者が犯人かもしれません。
そう言って、なにをどうするというのか。
爽歌が犯人なら、もう二度と犠牲者は現れないのではないか。彼に近付く女を排除し、勝ったのだから。
爽歌はいつも穏やかに笑っていた。
その裏でライバルを排除しようと莉衣沙を襲わせ、自ら池に落ちて偽装して……。
どれほどの悪意なのか。
人はそんなに悪辣になれるのか。
いや、悪意など微塵もないのかもしれない。
ただただ、穂希に近付くものを排除しようと、笑顔で。
仲良くなれそうだ、と笑っていた爽歌。
急激な悪寒と吐き気に襲われ、一鈴はトイレに駆け込んだ。
胃にあるものすべてを吐き出してもおさまらず、しばらくそこから動けなかった。