私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
穂希の部屋に入ると、一鈴はすぐに彼の手を振り払った。
「人前であんなこと、やめてください!」
「あんなこと?」
「だ、抱きしめるとか」
「意外に純情だな」
穂希は笑った。
一鈴はどきどきする胸を押さえてため息をついた。
こんなの、心臓がいくつあっても足りない。
「私、誰ともつきあったことないんです。だからやめてください」
「本当に?」
「嘘ついてどうするんですか」
一鈴は真っ赤になってうつむく。
「じゃあ」
あのときのキスは、一鈴にとっても初めてなのか。
気がついて、穂希はふっと笑う。
「笑うとか、ひどい」
「君だって、俺が女性とつきあったことないってわかったときに笑っただろ」
バレていた。一鈴は言い返せなくてふてくされた。穂希はさらにふふっと笑う。
「君が愛人にしてくれと言い出したときは驚いた。大胆だな」
「ぼろをだしてもらうためです。追い出したはずの邪魔者が来たら、焦ってなにかやらかすと思うので」
「君は本当に予想外だ。俺は愛する女を囮になんてしたくないが」
穂希が伸ばした腕を、一鈴はするりと避ける。
なんで、愛する女、なんて気軽に言えるのか。彼女いない歴と年齢がイコールのくせに。
「これが手っ取り早いですよ、きっと」
愛人にしてくださいと言った夜、そのままファミレスをやめてきた。
そうして「愛人」として彼の家に住む。犯人を煽るために。
家族には短期の住み込みバイトが決まったと言って出て来た。
「犯人がわかったらどうするんですか? 警察へ?」
「……君はどうしたい?」
「罪を償ってほしいです。でも、警察へ行くことが正解なのかはわかりません」
一鈴は複雑に顔をゆがめた。
呪いに見せかけて人にケガをさせてきたなら、たくさんの人を傷つけて来たということだ。