私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
「そうだ、これを」
 穂希はスーツの懐から豆サイズの狸の焼き物を取り出した。大きさは1.5センチほど。ユーモラスな表情で、ストラップがついていた。お土産みたいだ。
「出張で行った信楽で買った。八相縁起といって縁起のいいものだ。厄除けでもある」
 やっぱりお土産だった。

「厄払いとか開運から逃れられないんですね」
「これは願いだ。君を守るという俺の意志表明でもある」
「……贈り物にケチつける私が無粋ですね。ありがたくいただきます」
 それにしても狸って。締まらないな、と眺める。
 スマホにつけるにしても邪魔くさい。
 でも、せっかくもらったのだし、金具を通してペンダントにしておくか。鎖を長めにして服で隠れるようにして。
 ダイヤのペンダントは置いて来てしまった。忘れないようにと机の上に出しておいたらむしろ忘れた。

「私、どこに住むんですか?」
「俺の部屋に」
「嫌です」
「せっかく一緒にいられるのに」
「そういう話はすべて終わってからにしてください。今は犯人の」
 最後まで言わせず、穂希は一鈴の唇を奪った。
 すぐに一鈴は身を離す。

「なにするんですか!」
「君が俺のためにここまでしてくれている。期待してもいいんだよな?」
「……無理です」
「なんでだろう。無理だとは思えないんだ」
 穂希はふふっと笑った。
「今日はこれで我慢する」
 そう言って一鈴を引き寄せ、もう一度唇を重ねる。
 彼の舌が一鈴の唇を割って侵入してくる。
 やわらかく温かいそれが、一鈴の舌をからめとる。
 やめて、と言いたいのに、もれてくるのは言葉にならない声だけだ。
 彼は不器用に一鈴の中をかきまぜる。ただ愛だけが、そこからは伝わった。
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