私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
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恭子は穂希を自室に呼び出した。
夫である滉一は現在、地球の裏側に出張で連絡がとりづらい。
「穂希さん、どういうつもり?」
「俺を信じて待っていてください」
「そんなことできるわけないでしょう!」
「いつまで子供扱いするんだ?」
冷たい目で見返され、恭子はひるんだ。
「あなたは大切な私の息子よ」
「だから命令を聞け、と?」
「命令だなんて」
穂希の目が冷たく恭子を見下ろしている。
小さく温かな彼は、いつまでも温かく自分を慕うはずだった。
恭子は愕然と穂希を見た。
「……母さんには感謝している」
苦し気に言い置いて去る姿を、恭子は呆然と見送った。
彼の子供の頃を思い出す。彼になにかをした女子生徒が呪いの被害を受けるたび、恭子が謝罪したり反論したりを繰り返した。
その姿を見てきた穂希は負い目を感じ、恭子に気を使って過ごしてきたのだ、と察した。それはどれほど長く彼を呪縛したことだろう。
恭子はへなへなと崩れ落ちた。
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一鈴はまた別邸に住み、穂希は毎晩のように一鈴の元に通った。
メイドたちはひそひそと囁き合う。
「本当に大奥っぽくなってきたわね」
「まだ婚約者だけど、本妻と愛人が一つ屋根の下なんて」
「婚約発表のときに指名したのはあっちの女なんでしょ?」
「あの女がほかの婚約者候補を殺そうとしたんでしょ?」
「奥様に笑いながらワインかけたとか」
「メイドを脅迫して食べ物に針を入れさせたとか」
「私は毒って聞いたわよ」
「女性のボディーガードがついたわよね」
「お昼はいつも外食で」
「他人の金で贅沢三昧ってうらやましいわ」
「朝食と夕食は爽歌様をのけものにして」
「穂希様が女にあんなにでれでれするなんて」
「今まで呪いのせいで女が近付かなかったから」
「呪い、怖くないのかしら」
「怖いからボディーガードがいるんじゃないの」
「メイド長があの人の担当だって」
「特別待遇じゃない」
「監視じゃないの」
それらの噂は多美子がいくら止めようとしても止まることなく、静かに広まっていった。