私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
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悪者になってるなあ、と一鈴はへらへら笑って過ごした。
「戻っておいでになるとは思いませんでした」
部屋で二人きりになったとき、多美子は言った。
「歓迎されていないのに、すみません」
「そういうことではないのです」
多美子は無表情のまま、答える。
「余計な口を、申し訳ありません。ですが、若様に事情をお聞きして……」
「信じられないかもしれません。証拠がほしくて、ここに来ました」
「私は若様を昔から存じております。めったなことを言う方ではありません」
多美子はまっすぐに一鈴を見た。
「一鈴様が危なくなります。本当によろしいのですか?」
鉄面皮に、わずかに心配の色が覗いた。
それだけで、なんだかうれしくなる。
「穂希さんの呪いを解きたいんです」
「若様には、幸せになっていただきとうございます」
多美子が遠慮がちな言葉に、一鈴はにこっと笑った。
食事の時間は爽歌とずらされた。
朝と夜の食事は穂希と同席だった。昼は外へ食べに行く。常に女性の警備がついてまわった。
邸内での食事では隣同士で座り、お互いに食べさせ合う。
「あーん」
一鈴が食べさせると、穂希はうれしそうに目を細めた。
いちゃいちゃして仲がいいのを見せつける目的があった。
これは毒物の対策でもあった。
どちらがどの皿を食べるかわらかない。間違って穂希が毒を摂取するかもしれない。その危険がある以上、毒は盛らないはずだ。邪魔を排除したいだけのはずだから。
「はず」で構成された論理がどこまであてになるのか不明だ。だが、今はそれしかなかった。
だが、彼はいつもうれしそうだった。
「この料理、にんにくが入ってるな」
臭いを気にしたのか、穂希が言った。
「にんにくの臭いは生のリンゴを食べると消えるって聞いたことありますよ」
「一鈴さんはいろんなことを知ってるな。俺の膝の上にのって」
「嫌です」
「君の体温を感じながら食べたい」
「言い方がいやらしい!」
拒否しても、穂希はうれしそうにくすくすと笑った。
メイドが見守る中で行われるそれに、一鈴はいつもいたたまれない気持ちになった。