私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~



 警察を待ち、リビングでいらいらとコーヒーを飲んでいるときだった。
「申し訳ありません。犯人を取り逃がしました」
 時任の報告に、穂希は驚きを隠せなかった。
「なぜだ」
「何者かが厩舎の柵をはずし、馬が脱走して人手がとられ、その隙に逃げられました。見張りはスタンガンで無力化され防犯カメラは切られていました。協力者や逃走経路はわかりません」
 犯人側の対応が早過ぎる。
 穂希は顔をゆがめた。まだ内通者がいたのだ。

「映像データは」
「メインの防犯カメラは切られていましたが、増設した分は無事です」
 ならば、犯人の姿は残っている。
 スマホはこちらにあるし、ようやく物理的な手掛かりを手に入れた。

「協力者も逃げたあとだろうな」
 穂希は独りごちる。襲撃に失敗したときの計画まで練られていたというわけだ。
「ほかにもいるかもしれない。一条院家から紹介されたメイドや従僕を優先して調べてくれ」
「かしこまりました」
 動揺を押し隠し、時任は答えた。
「痕跡はある。必ずたどりついてやる」
 穂希は(くう)をにらみつけ、呟いた。

***

 一鈴はその日、寝起きに多美子に告げられた。
「本日は観光事業部が行う遊覧飛行の開会式があります」
「今日でしたっけ」
 寝ぼけながら答えた。
 朝食後、多美子が用意したアフタヌーンドレスに着替えた。落ち着いたくすみピンクだった。イブニングドレスと違って露出が少なく、胸元が隠れてホッとする。袖で二の腕が隠せるのもありがたかった。

 迎えにきた穂希はいつもよりかしこまった服装で、どきっとした。
「今日もかわいいな、一鈴さんは」
 穂希の言葉に文句を言おうとして、やめた。
 表情が暗いのが気になって、軽口を叩けなかった。
 穂希はリムジンを用意していて、一鈴とともに乗った。
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