私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 リムジンの椅子はまるでソファで、車中にテーブルやカウンターがあるのが新鮮だった。
「リムジンなんて初めてです!」
 興奮して穂希を見ると、彼はまだ憂鬱な顔をしていた。

「なにかあったんですね?」
「言えば君はショックを受ける」
「そういう言い方されると聞くしかないですよね」
 穂希はため息をつき、白状した。
「昨夜、君が移動する前の部屋に襲撃者が現れた。捕まえたが、逃がしてしまった」
「惜しい!」
 一鈴の言葉に、穂希は驚く。

「怖くないのか」
「その場にいたわけじゃないんで、実感わかないですね」
 へらへらと一鈴は笑う。
「また無理をして。だが、笑っていると豪胆に見えるな」
「無理してるのは穂希さんでしょう。顔が青くて」
「実を言うと、ろくに寝てない」
「私にかまわず移動の間だけでも寝てください」
 穂希は疲れの濃い微笑を見せた。

「少し甘えてもいいか」
「はい」
 答えると、穂希はこてんと横になり、一鈴の膝に頭を乗せた。
「ちょっと!」
 慌てるが、穂希はもう寝息を立てている。
「早過ぎ」
 一鈴はあきれる。
 が、無防備に寝ている彼を見ると、なんだか文句を言う気力はなくなってしまう。
「お疲れ様」
 一鈴はそっと穂希の頭を撫でた。柔らかい髪の感触に、心の奥がむずがゆくなった。



 開会式の会場は河原だった。
「遊覧飛行って、ヘリだと思ってた」
 ばかでかいそれを見て呆然とする一鈴に、穂希はふっと笑う。
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