私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 一鈴はマナーを勉強させられた。拒否権などなかった。
 スイスのフィニッシングスクールで講師をしていたという女性は、にこやかだが厳しかった。

 常に背筋を伸ばせ、指を揃えろ、人に物を渡すときは両手で。とにかく丁寧にを心がけろ。
 そのほうが美しいのは納得したが、実践は果てしなくめんどくさい。

 令嬢は常にこれを意識して生きて行くのか。癖になれば平気なのか。それにはどれほどかかるだろう。
 一鈴はうんざりした。



 食事のときは冷たい空気にいつも緊張した。
 この日の昼食もまた、そうだった。
 大きすぎるテーブルにかけられた白いクロスがやけに目につく。
 先に着席した四人は目を合わせず会話もない。
 メイドたちはぴくりともせず、人形のように無表情に背筋を伸ばして立っている。

 ふと、コスモが自分を見た。ニコッと笑いかけられ、ようやく解凍された気持ちになって席に着いた。
「穂希さんがこんな人を選ぶなんて」
 莉衣沙がぶつぶつ言う。
「体を使ったのね。下品だわ」
 一鈴は笑をこらえてうつむいた。
「そんな発想をするあんたが下品だ」
 コスモがあきれて言う。

「あはは!」
 耐えきれず、一鈴は笑った。
 四人ばかりかメイドまでがギョッとして一鈴を見る。
 あれ?
 一鈴は固まった。
 笑うところじゃなかった? ボケとツッコミじゃない?

 佳乃が冷たく一鈴を見る。
「多美子さん、彼女は別席がいいのではなくて?」
「検討いたします。ですが今夜は穂希様と恭子様がおいでになります。お揃いくださいませ」
 多美子が言うと、莉衣沙は目を輝かせた。
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