私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
「こんなん、呪い関係なく女が嫌になるよ」
 コスモがあきれてつぶやいた。

 でも、と一鈴は思う。期待……いや、予想より愛憎劇がなかった気がする。
 先日、穂希が来たときも冷ややかだった。
 爽歌は幼馴染らしいが、ここにいるということは好意があるのだろう。
 コスモは結婚したくないらしく、佳乃も彼に興味がなさそうだ。
 わかりやすく積極的なのは莉衣沙だけだ。

 愛がないなら憎もないだろう。
 悪口の応酬はあるが、もっと凄まじいものを想像していたから、やや拍子抜けした。



 昼食後はまたマナーの勉強だった。
 夕方、疲れはてて部屋を出ると、廊下の先に結衣子を見かけた。
 思わず手をふる。
 彼女は顔をそむけて行ってしまった。
「あれ? 無視?」

 直後、後ろからぶつかられた。
「うわ!」
 一鈴は前のめりに倒れた。
 振り返ると、シーツを両手に抱えたメイドが立っていた。
「邪魔です」
 言われた一鈴は立ち上がって端に寄る。
 メイドは彼女をにらみ、去った。

「なんで」
 初めて見る人に悪意を向けられてしまった。
 首をひねりながら、キッチンへ向かう。
 入り口にいたメイドに声をかける。
「すみません、水をもらえませんか?」
 メイドは顔をしかめた。
「お部屋でお待ちください」
 言って、メイドは立ち去った。

 今くれればいいのに。
 そう思ったが、引き下がった。
 だが、部屋でいくら待っていても誰も来ず、一鈴は困惑した。
 忘れられたかな。また行くしかないか。
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