私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
「あはははは!」
 げらげらと笑い、一鈴は同僚の女性たちにドン引きされた。
「よく笑ってられるわね」
「だって、出勤したら会社がつぶれてるとか!」

 指さした先には会社のドア。貼られているのは「倒産のお知らせ」だ。
 駅からほど近いビルの三階に彼女たちの働く会社があった。
「社長、夜逃げで連絡とれないって」
 同僚が教えてくれる。

「つぶれるときってこんな感じなんですね」
 へらへらしていると、今や元同僚となった一人がため息をついた。

「あなたを見てると落ち込んでるのがバカバカしくなってきた」
「ほんと、気楽でいいわね」
 あきれた声に、一鈴はまたへらへら笑った。



 彼女たちと別れて駅に向かった一鈴は、深いため息をついた。

 二十五歳で無職になった。
 会社がつぶれたのはショックだった。
 それでも笑ってしまった。

 昔からそうだ。緊張したとき、衝撃を受けたり恐怖を感じたりすると笑ってしまう。変なタイミングで笑って、空気が読めない、無神経、図太いと言われてきた。仕方なく前向きな言葉でごまかしてきた。

 駅前まで来た一鈴はベンチに座り、がっくりと肩を落とす。
 空は晴れ、人々が忙しそうに行き交う。誰も自分が失業したなんて知りもしない。
 両親と三人の弟妹の顔が浮かぶ。
 両親は共働きだが、生活で精いっぱいだ。
 上の弟の陽太は高校三年生、下の弟の碧斗は中学三年生で両方とも受験だ。一番下の妹は小学生。三人とも食べ盛りだ。
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