私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 一鈴があきらめて部屋を出ようとしたとき、玉江が訪れた。
「今夜のご衣装をお持ちしました」
「ありがとうございます。水じゃないんですね」

「水ですか?」
「さっきキッチンで頼んだんです。部屋で待てって言われて」
「すぐにお持ちします」
 玉江は服を置いて出て行った。
 すぐに水を持ってきてくれて、それだけで一鈴はホッとした。



 穂希が別邸を訪れるときは全員での出迎えがルールだ。
 今夜は一緒に夕食をとるということで特別のようだった。

「今日のドレスコードです」
 玉江に言われ、一鈴は芸能人がパーティーで着るような裾の長いドレスを着せられた。
 似合っているとは思えなかった。
 ビジューがきらめく濃紺のドレスだ。肩が大きく開き、袖は飾り程度。マーメイドラインで裾はひきずるほど長い。自分よりも佳乃のほうが似合いそうだ。靴はハイヒールだった。

 本邸と別邸をつなぐ扉の前に行くと、すでにみんな並んで待っていた。
「すみません、遅くなって」
 ぺこぺこと頭を下げながら行くと、じろじろとメイドたちに見られた。
 なんだろう、と思って進んで理解した。

 ドレスは自分だけだった。佳乃はブラウスにスカートだし、莉衣沙はかわいいワンピース、コスモはいつものように軽装。爽歌は着物だった。
 なんで。
 玉江に聞きたいが、彼女はもう列にならんでいて、話し掛けられない。

 どぎまぎして端っこに並ぼうとしたら、多美子に注意された。
「あなた様はこちらです。立場をわきまえてください」
 扉に一番近い端から移動させられた。
 扉に最も近い両側が爽歌、佳乃。次が莉衣沙とコスモ。一鈴はその次だ。
 遠慮したつもりが、一番いい位置を陣取ろうとしたと思われてしまった。

「目立とうとして、かっこ悪!」
 莉衣沙が聞こえるようにつぶやく。
「気合入れて来たね」
 笑うようにコスモが言う。
「ドレスコードって聞いたけど、勘違いですね」
 えへへ、と一鈴は小さく笑った。
< 30 / 206 >

この作品をシェア

pagetop