私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 太鼓が三度、鳴らされる。
 扉が開かれ、穂希が現れた。後ろには恭子がいる。
 彼は泰然としていて、開運グッズが部屋に満載だとか、そのようには見えなかった。
 無表情の彼は、だが、一鈴を見るとふっと笑った。

「おしゃれして来たね」
「ありがとうございます」
 思わず頭を下げた。
 莉衣沙がむっとしたのがわかったが、見ないようにした。
 穂希が歩き出すと、令嬢たちがついていく。

 一鈴も歩き出す。高いヒールでがくがくと不自然にしか歩けない。

 ぐっと後ろから力がかかった。
 つんのめって、ずでーんと転んだ。

 思わず一鈴は振り返る。
 誰かがドレスの裾をふみつけた。
 事故なのか故意なのか。
 恭子が大きく息をつくのが聞こえた。

「あははは、すみません!」
 一鈴はがばっと起き上がる。と、穂希がふっと笑って歩み寄って来た。
「大丈夫?」
「大丈夫で……うわ!」
 言い終わるより先に、穂希は一鈴を抱き上げた。
 一鈴は慌てて、だけどどうしたらいいのかわからない。

「大丈夫ですから、降ろしてください!」
「ダイニングに着いたらね」
 いたずらっぽく、穂希は笑う。

 メイドたちに注目されて恥ずかしい。莉衣沙の視線が突き刺さり、コスモは笑った。爽歌は戸惑っていて、佳乃は無表情だった。
「穂希さん、いけません」
 恭子が咎めるが、彼は答えず、歩を進めた。



 食堂では穂希が長いテーブルの端、全員を見渡せる位置に座った。恭子はその横の角で、あとはいつも通りだ。
 食前酒はホワイトミモザだった。グレープフルーツとシャンパンのカクテルだ。さっぱりと爽やかな味だった。
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