私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 昨日の夕食時、陽太は卒業したら働くと言った。
 両親とともに進学を勧めると、
「そういう姉ちゃんは奨学金の返済で大変じゃん」
 反論に、一鈴はなにも返せなかった。

「タカライホールディングスの観光事業部による遊覧飛行、楽しみですね」
 駅前のビジョンで、アナウンサーが明るく言った。

 顔を上げるとニュースはもう変わっていた。
 タカライはスーパーで有名だ。観光事業もあるとは。
 空の旅、いいな。
 それよりどこかに大金落ちてないかな。買ってない宝くじが当たるとか。

 ふと見ると、スズメが地面をちょんちょんと跳び歩いている。
 飛べるのに、結局は地上に降りて餌を探している。
 陽太の進学のためにも地に足をつけて働かないと。

 スマホで求人情報を見る。
 タカライの正社員なら勝ち組だな。
 ため息とともにスワイプし、見つけた。
「これだ!」
 大声で立ち上がる。周囲の人がびくっと一鈴を見た。
 画面には『住み込みメイド募集、月給50万』と書かれていた。



 一鈴は審査をくぐりぬけ、無事に採用された。
 初出勤は同時採用された人と同じ日だ。勤務先の最寄り駅にはワンボックスが迎えに来た。

 世田谷区の一角に屋敷があった。壮麗な門の柵は鉄製で先端が鋭く尖り、車の到着とともにゆっくり左右に開く。塀には装飾性のある忍び返しがあり、左右は端が見えない。
 中には森が広がり、車は中心を貫く道を低速で進む。
 一鈴はわくわくと景色を眺めた。

 屋敷の主はタカライホールディングスの三代目社長、宝来滉一(たからいこういち)だ。
 タカライホールディングスは街の青果店から始まり、戦後はスーパーに転身、成長を続けた。今や全国展開し、いくつものショッピングモールを運営し、海外にまで進出している。

 屋敷前にはロータリーがあり、芝生の中心には女神のような彫像があった。
 玄関には白い柱に支えられたポーチがあり、両開きのドアがあった。
 豪勢な洋館だった。ここに滉一と妻の恭子(きょうこ)、31歳の息子の穂希(ほまれ)が住んでいる。穂希の上に娘が二人いるが、結婚して海外に移住している。
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