私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 謝る爽歌に、穂希が気遣いを見せた。
 そうやってラブラブしてなよ、と思ってぞうりのひもを見て気が付く。何かで切られたような断面だった。
 彼女もメイドから嫌がらせを受けているのだろうか。

「運転手に買って来させるか……外商のほうが早いか?」
「応急処置ならたぶんできます。ナイフ、持ってるんですよね?」
 一鈴は爽歌にたずねる。
「懐剣のことかしら」
 爽歌は帯に挟んだ飾りのついた懐剣を取り出す。

 懐剣を受け取り、一鈴は自分のハンカチを切ってひも状にした。ぞうりのひもをひっかけて鼻緒を通す穴に入れる。裏側に出したひも状のハンカチに五円玉を通し、ぎゅっと結んだ。
「お金を踏む感じが気になるんですけど応急なんで」
「すごいですのね」
「彼女は器用なんだよ」
 感心する爽歌に、穂希がなぜか自慢げだ。

「ありがとうございます。やっぱり私、先に帰ります」
 懐剣を返し、一鈴は言った。
「なぜだ」
 だってお邪魔じゃん。
 本人を目の前に、それは言えなかった。
「用事を思い出したんで」
「どんな用事だ」
 突っ込むなよ、察しろよ!
 にぶい彼に、一鈴は若干いらっとした。

「穂希さん、無粋をおっしゃってはいけませんわ」
 彼女のほうが察してくれてるじゃん、と一鈴はへらっと笑った。
「じゃ」
 歩き出そうとして、その腕を捕まえられる。
「なんですか」
「車の場所、わからないだろう。こっちに呼ぶから待て」
「あ、はい」
 車が来るまで三人で会話をしたが、しだいに爽歌と穂希だけが話をして一鈴はただうなずくだけになった。
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