私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
「本日は特別に正門から来ましたが、今後は裏の通用口、通用門から出入りしていただきます」
 運転手が説明した。
 車はさらに北側に進み、寮の前で彼女たちを下ろす。
 寮は大きなマンションだった。
 使用人だけで何人いるんだろう。
 一鈴は目を丸くして寮を見た。



 翌朝、一鈴は支給されたメイド服を着た。
 黒いワンピースに、白いエプロン。バックルのついた黒い靴。
 鎖骨まである髪は一つに結んだ。髪ゴムは黒か茶と決まっていた。装飾品は不可。
 集合場所である寮の玄関に行くと、ほかの新人の四人が来ていた。全員40代以上のようだ。

 迎えのメイドもいた。50過ぎの痩せた女性で厳しい顔つきをしている。黒い髪をきっちりまとめてピンと立つ姿は、それだけで威厳があった。
「メイド長の日下多美子(くさかたみこ)です。一カ月の研修で向いていないと判断したときには退職していただきます」

「よろしくお願いします!」
 期せずして全員の声がそろった。

 多美子に連れられ、本邸へと全員で歩く。
 まずは各所を案内された。
 どの部屋も広かくて豪華だった。
 シアタールームやビリヤード室などもあった。客間が多く、それぞれに浴室、トイレなどがついている。これらを毎日メイドが磨き上げるのだ。
 滉一と恭子、穂希の部屋は入室禁止だった。管理は執事の時任賢也(ときとうけんや)とメイド長の多美子が行う。

 次は渡り廊下でつながった別邸を案内された。
「現在、若様の——穂希様の婚約者候補様がご滞在です。粗相のないように」
 候補、と一鈴は内心で呟く。

「あちらでお茶をしてらっしゃいます」
 窓の外、芝生の中庭で四人の女性がテーブルを囲んでいて、傍らでバイオリンを弾く年配の女性がいた。
 生演奏だ、と一鈴は驚いた。
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