私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 夜、こっそり訪れた穂希の報告に、一鈴は愕然とした。
「莉衣沙さんが入院?」
 彼女が階段から落ちてケガをしたとは聞いていたのだが。

「足を骨折したそうだ。俺の呪いのせいだ」
 うつむく彼は、部屋のドア付近から先に入ってこようとしない。
「呪いなら一緒にでかけた私が大ケガしてないとおかしいですよ」
 いや、時差だろうか。彼女は以前、穂希にべたべたしていた。
 考えて、我に返る。呪いを前提にするからおかしくなるんだ。

「事故ですよ。穂希さんも階段で足を滑らせたことくらいありますよね?」
「落ちるほどってなかなかないだろう」
 穂希はため息をついた。
「爽歌のぞうりの鼻緒が切れるし、君のハンカチをダメにしてしまった」
「自分で使ったのに呪いカウント?」
「最近、店の売り上げも落ちてる」
「呪いって便利ですね。呪いのせいなら努力しなくてすみますもんね」
 うんざりして一鈴は言った。

「努力してないっていうのか」
「言い訳に使ってるじゃないですか」
「俺のこれまでを知らないくせに軽く言わないでくれ!」
 ムッとした顔を見て、一鈴は言葉に詰まった。
「その通りです。すみません」
 頭を下げると、穂希は気まずそうに目をそらした。
「今日は笑わないんだな」
「そうですね」
 笑う癖が出るのはもっとまずい状況のときだ。

「ハンカチをダメにしたから」
 穂希はリボンのついた袋を床に置いた。手渡ししないのは呪いを恐れているからだろうか。
「別にいいのに」
「良くはない。爽歌も気にしていた」
「では、いただきます」
 爽歌さんのためか、と一鈴は軽く息をついた。
「君も充分気を付けてくれ」
 そう言って、穂希は部屋を出て行った。
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