私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
「一番右の方が嶌崎佳乃(しまざきよしの)様。食品大手、嶌崎ホールディングスのご令嬢です。27歳の若さで凄腕の投資家でいらっしゃいます」
 ゴージャスで迫力のある美人だ。豊かな黒髪はパーマでふんわりしていた。メリハリのあるボディラインがセットアップの上からでも見て取れた。

「お隣は倉持莉衣沙(くらもちりいさ)様。23歳、倉庫や物流の会社、クラモチ倉庫、クラモチ運送のご令嬢です」
 かわいい女性だ。内巻きの髪でピンクのワンピースが似合っている。

吉岡香珠萌(よしおかこすも)様。25歳、吉岡製パンのご令嬢です」
 ピンクブロンドのマッシュなショートが目立っていた。スマホを見てふんぞり返って椅子に座っている。スマートな体型にカジュアルな軽装だった。

「左端の方が一条院爽歌(いちじょういんさわか)様。28歳、五井純友(いついすみとも)銀行頭取のご令嬢で、穂希様とは幼馴染でいらっしゃいます」
 腰まである長い黒髪が艶やかで、上品かつ可憐な女性だった。

 カラスの濡れ羽色、と一鈴は思った。カラスの羽は青や緑などの光沢がある。同じように美しく輝く髪を指す言葉だ。
 彼女は一人だけ着物だった。暗めの赤い地に大輪の花が華やかだ。

 四人は友好的には見えなかった。
「令嬢の滞在中、別邸は男子禁制です。出入りできる男性は若様である穂希様のみ。侵入者は排除します」
 多美子の声は冷たい。

「現代の大奥なんて揶揄する者もいますが、大奥ではありません。若様がメイドを見初めるなんて夢は見ないように」
「はい」
 五人は緊張して返事をした。

「若様に何かしたらクビです。過去にいたのですよ、わざとぶつかったりバケツの水をこぼして気を引こうとした愚か者が」
 多美子に一瞥され、一鈴はすくみ上がる。

「噂話などの余計な口をたたいてもクビです。品性の低い人間は必要ありません」
 緊張は増すばかりで、一鈴は笑いそうになるのを必死にこらえた。笑ったらきっとクビだ。

 任された仕事は掃除だった。
 一鈴を直接指導する先輩は、和久保玉江(わくぼたまえ)と言った。一鈴より二歳年上の27歳だという。
 玉江はてきぱきと指示をして自分も掃除をする。一鈴は必死に彼女について動いた。

「掃除って全身を使うから、しばらくは筋肉痛よ」
 玉江は笑ってそう言った。
 優しそうな先輩で良かった、と一鈴はほっとした。
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