私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
その夜、令嬢たちが夕食を終えたあとのこと。
御曹司がお出ましになると通達があった。
一鈴は本邸への扉から一番遠い端に並ばされた。そっと覗いてみる。赤い絨毯が敷かれた廊下の両サイドに、メイドがずらっと並び、壮観だった。
逆の端、扉近くには四人の令嬢が立つ。花が咲き誇るように美しく着飾った彼女らは館の頂点に君臨し、やがて得る寵愛を待ち望みここにいる、はずなのだが。
香珠萌はカジュアルな服でそっぽを向いていた。
爽歌は着物姿のせいか一番目立っていた。
どーん、どーん、どーん!
太鼓が三度、打ち鳴らされた。
扉が両側に開かれる。
奥には背の高いスーツの男がいた。
この家の御曹司、穂希だ。
きりりとした顔に黒髪がクールだ。
令嬢とメイドたちが一斉に頭を下げた。一鈴も慌ててそれにならう。
彼は臆する様子もなく歩きだし、令嬢たちが顔を上げて続いた。
さらにメイドたちが順番に姿勢を直して続く。
なんかすごい。でもこの行列の意味って。
思った直後、つまずいて転んだ。
「ちょっと!」
先輩に怒られた。
「すみません!」
慌てて立ち上がる。
非難の目が怖くて、体をすくめた。
リビングに到着すると、穂希はソファに腰を下ろした。
莉衣沙と爽歌が彼の両サイドに、佳乃が正面に座った。香珠萌は少し離れたピアノの椅子に座った。が、ピアノを弾くわけでもなくスマホを細い目で見ている。
先輩メイドはそこで解散したが、新人の五人は多美子の指示でリビングに並ばされた。
「新人のメイドです」
多美子の紹介で一鈴たちは頭を下げた。
「そうか」
穂希は短く返した。
「よろしくお願いしますね」
爽歌はにこやかに挨拶した。 感じのいい人だ。それに比べて、と一鈴はほかの令嬢を見る。