私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 穂希が優しく彼女を見て、わずかな笑みを刻んだ。
「下がらせてくれ」
 穂希が言う。

 多美子は頭を下げ、一鈴たちをリビングの外に連れ出した。
「九守さん、次にやったらクビです」
 廊下に出た直後に言われ、一鈴は全身を固まらせた。
「はい!」
 一鈴はまた鳴りそうなお腹を押さえた。

「一週間後には婚約者の発表があります。しっかり働いてくださいね」
「がんばります!」
 発表後なら多少のミスは許してもらえるかな。御曹司より給料のほうが大事なんだから。
 ぐう、とお腹がまた鳴って、多美子があきれて一鈴を見た。一鈴は顔を赤くしてお腹をさすった。



 食堂でご飯を食べていると、同じく新人メイドの広立結衣子(ひろたちゆいこ)が隣に座った。40歳くらいのショートヘアが似合っている女性だ。
 お疲れ様です、とお互いに挨拶をする。
「初日から疲れたわよね」
 結衣子が明るく笑うから、一鈴はなんだかほっとした。

「千人以上の応募があったらしいよ。最終選考に残った人は身辺調査もあったって」
「すご」
 一鈴は驚いたあと、疑問に思って言ってみる。
「なんで婚約者候補が四人でここに住んでるんでしょう」

「聞いた話だけど相性を見てるんですって。でも誰も無理そうよね」
 御曹司は愛想が悪く、令嬢のうち結婚に前向きなのは莉衣沙だけに見えた。
 だが、穂希は爽歌にだけは心を許しているようにも見えた。

「奥様的には嶌崎ホールディングスの娘かメガバンク頭取の娘がいいみたいよ」
 どろどろの愛憎劇があるのだろうか。冷戦という雰囲気で泥沼には見えなかったが。とはいえ、ちょっとわくわくしてしまう。

「でも、いくらイケメン御曹司でもあの人は嫌よねえ」
 結衣子が言い、一鈴は首をかしげた。
「女遊びが激しいとか?」
「知らないの? 呪われてるって噂」
「呪い!?」
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