私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
「どっちかっていうと、ないですね」
 お金につられて偽装婚約をするくらいだから。
「なんて無責任な」
「よく言われます。不本意ですけど」
 一鈴はへらへら笑う。

「プライドをどこにどう持つか、人によって違いますよね。笑いのためにはプライドを捨てるって人は、笑いにプライドを持ってるってわけで」
 小幡はあっけにとられて一鈴を見た。
「言いたいことはわかる。が、そんなうまくいくわけがない。レーサーとしても中途半端なまま引退して転職先は運転手……」
 小幡の表情には深い絶望が垣間見えた。

「レーサーだったんですか?」
「F3までは頑張った。だが、俺程度のやつはいくらでもいる。身長が高いのもネックだ。それ以上に資金が問題だった。金がかかるスポーツだ、資金がなくなって挫折した」
 F3? F1なら聞いたことある、と思いながら一鈴は言う。

「ちょうどいいスポンサーがここにいる気がしますけど」
 佳乃は呆然と一鈴と小幡を見比べる。
「トップレーサーとお嬢様、いいじゃないですか。どうでしょう。彼は投資に値しますか」
「もちろんよ」
 即答して、佳乃は小幡の手を取った。
「今でも休みの日にサーキットに走りに行っているの、知ってますわ」
 小幡は困惑して佳乃を見た。

「私のために、がんばってくださる?」
 小幡はうつむく。
 そんな簡単に答えられることでもないだろう、と一鈴は思う。
 思いつきで二人をくっつけようなんて思ってしまったが、あまりに性急すぎた。
 だが。
 小幡は意を決したように顔を上げた。
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