私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 それ以上に、自分の激変に驚いた。部屋が片付く日が来るとは思わなかったし、女性に甘える日が来るなんてなおさら思わなかった。
「婚約か」
 穂希はつぶやき、二つの置物を眺めた。
 一つは爽歌がくれたシーサー。
 もう一つは小さな黒い招き猫。
 黒猫は不吉という思い込みを一鈴が払拭した。それを忘れないために残した。いつかすべての思い込みを払拭できるように。

***

「いえーい、BNW!」
 一鈴は宝来家の森の道を自転車で爆走した。
 三日ほどコスモと会っておらず、メッセージも既読無視だった。気になって、コスモがよく行く乗馬施設へ向かっていた。それも宝来家の敷地内にある。

 目的の馬場には、馬に乗るコスモがいた。
 ヘルメットをかぶって乗馬服に身を包み、背筋を伸ばして馬を操っている。颯爽と障害を越える姿はまるで映画のワンシーンだ。
 佳乃のことを報告したくてたまらなかった。言えないけど。
 抱きしめ合う二人を思いだして、うっとりした。

 いいなあ、私も素敵な人と出会いたい。
 唐突に穂希の顔が浮かび、慌てて首を振った。
「ダメ、この人は売約済み!」
 ふと視線を感じると、コスモがこちらを見ていた。
 一鈴は大きく手を振った。

 が、コスモは馬首を翻して奥へ走っていく。
 目があったのに。どうして。
「……帰ろっかな」
 一鈴はしょんぼりと歩き出す。
帰り道、かっこよく障害を越えるコスモを思い出し、背筋を伸ばして自転車を漕いだ。
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