私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
帰って来た一鈴を見て、玉江は驚愕した。
「どうなさったんですか!?」
「自転車でこけちゃって」
へへ、と一鈴は笑った。
服は破れ、腕から血が出ていた。全身が砂にまみれている。
「すぐにお医者さまを!」
「かすり傷だから」
「ダメです」
玉江は多美子に連絡した。多美子はすぐに医師をよこした。
「大袈裟だなあ」
とはいえ、と一鈴は思い出す。
転んだときに自転車を確認したが、スポークが折れてぶらんぶらんしていた。断面にはニッパーでつけられたような傷がついていた。
すぐに折れるように細工されていた?
疑問に思うが、どう証明したらいいのかわからない。
穂希に言えば、呪いだ、とまた自分を責めてしまうだろう。
もやもやとしたものを払えず、ため息をついた。
穂希から電話がきたのは夜だった。
「自転車で転んだと聞いた。申し訳ない」
開口一番、彼は謝罪した。
どうして知ったのか。玉江に自転車の処分を頼んだから、そこから多美子へ、彼へ、と伝わったのだろうか。
「俺の呪いが」
「転んだだけです」
一鈴はかぶせて言った。
「あんまり呪いって言うと、責任とって結婚しろって言いますよ?」
言ってみて、心臓がずきっと痛んだ。
あ、これダメなやつ。
へら、と一鈴は笑った。
いつもの癖だ。なにかを無意識にごまかそうとしている。
「結婚、するか?」
穂希の声は真面目だった。
「冗談です」
わかってる、穂希が爽歌を好きなことは。
「君の冗談はたまに笑えない」
「……ごめんなさい」
「珍しく殊勝だな」
「いつだって殊勝ですよ」
一鈴はまた、へらっと笑う。