私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
「ところで、御札を返しに神社に行きたいから付きあってほしい。明後日だ」
「急ですね。仕事は?」
「有休をとった」
「一人で行けますよね?」
「偽装の一環だ」
 胸がまた痛くなる。
 爽歌さんは自分を信じてくれた。なのに彼と出掛けるなんて、裏切るみたいだ。

「わかりました」
 契約終了まであと少し、爽歌さんには我慢してもらおう。
 ここを去れば、穂希はすぐに自分のことなんて忘れる。
 そうして、自分も忘れるのだ。

 時間を決めて通話を切ったとき、玉江が険しい顔で本邸から戻って来た。
「聞いてください、ひどいんです!」
 玉江は怒りを隠せない様子だった。
「一鈴様が転んだのは自演だって言われたんです! 被害者を装ってるって」

 一鈴はへらっと笑った。そういう解釈をされるとは意外だった。だが、どうして彼女はこういう余計なことを教えて来るんだろう。
「そのうちおさまりますから」
 へらへら笑うと、玉江は不満そうに口を閉じた。



 二日後、自らの運転で迎えにきた穂希の車を見て、一鈴は絶句した。
「なんですかこれ」
 メタリックなダークグレーの平たい流線形で、端に赤いラインが入っていた。好戦的なライトに低い車高、大きなリアウィング。二人乗りでまったく荷物は積めなさそうだ。タイヤは太かった。ドアはガルウィングで、立体駐車場に止めるのは絶望的だ。

「ファガーニのエアイラ。イタリア車だ」
 珍しくカジュアルな服装をした穂希が答える。
 車高が低くて乗りにくかった。コンビニの駐車場の出入口で底をがりがりと削りそうだ。
 ドアは穂希が閉めてくれた。
 すぐにファガーニをスマホで検索する。
「一億から五億!?」
 運転席に乗り込んだ穂希を見て、一鈴はあきれた。
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