家出少女の反抗
「別に普通でもいいじゃないか」と羨ましく思っている人も、いるかも知れない。
煙草の火を枯れ草に垂らしてチリチリと焼ける様を、横目に達観してみる。
だけど私にとって「普通」というのは、「使い勝手のいい人間」というふうに見なされてしまう気がする。
それに周りの人間に都合のいいように使われてしまう、そういう予感がしてならない。
考えた瞬間、身震いが走る。
ーー「いいように使われるのは、ウンザリだ」ーーー。
そう頭の中で反芻して「理想」は私を内側から蝕み、私を煙草と一緒に腐らせてゆくのだ。
だからこそ「理想」は高くなり「頭が良くて、一番冴えてる一軍女子」という「幻影」に変わり、私は「一軍」という「個性」に憧れドツボにハマってゆく。
あまりの辛さに、舌打ちが溢れる。
お世辞にも今の現状を「満足だ」と思えない、心奥底の闇。
環境を変えたいのだが、努力次第ではどうにもクラスの地位など変える突出した才能もない。
ーーもう……一体どうしたらいいのかさえ、分からない。
恐ろしい隠れ承認欲求モンスター化とする私は、助けを求めるようにまた煙草を口にして煙を吐き出した。
そんな「理想」に食われすぎている私は、ちょっとだけ浮いた存在であるらしい。
学校内では「普通ではあるが、少し落ちこぼれ」という微妙な立ち位置におり、馬鹿にしている人間もいるとか。
以前クラスメイトで友達である結が、そう口にされた時は失笑した。
ーー「普通であって、少し落ちこぼれ」ってそれ友達に言うか?普通?
まぁ、それは置いておいてーーまずはもう一回煙草を一腹吸って話そう。
確かに結の話だと「普通」からは抜け出したが、ちょっと「落ちこぼれ」の「個性」は、受け入れきれない。
「理想」は私の不満を解消してくれる「幻想」であり、「現実」という名の世界を壊してくれる「道具」でしかないからだ。
だからこそ「この異常なスクールカーストをぶち壊しててっぺんに上り詰める」そんなストーリーを頭に浮かべては、傷ついているのかもしれない。
天を仰ぎ流れゆく、雲を眺めた。
ーー昔はそんな事考えもしせず、気楽に生きていたのに……。
それと同時に煙草の煙を、見やる。
ーー煙草の煙のように嫌われていても空気に溶け込むような、そんな存在になりたい。
誰が「上」だとか誰が「下」だとか決めつけられず「自分」という存在自体を認知しないような、不透明な世界に逃げたらどんなに幸せか。
だがそんな世界は、この世の中には何処にも実在などしない。
煙草の吸殻を眺めて、軽く笑った。
それは「私自身」なのかそれとも「私を追い込む「世界」」に対して笑っているのか、よくわからない。
でももし目の前に鏡があったなら、きっと口元だけは月のように歪んでいる事であろう。
私の拙い言葉で表すのであれば、「絶望」ってやつだ。
煙草を潰して、また新しい煙草に火を付ける。
ーーでも、どうしてこうなってしまったのだろう。
空を仰いで、煙草を一服。
ーーどうして「理想に食われる自分になってしまった」のか。
それを語るには何故だが青臭いし、カッコ悪い気がして瞼を閉じる。
一筋の雨のように、目元から口元の間の頬を一直線に涙が伝った。
「馬鹿みたい………」
考えても答えが出ない堂々巡りの質問をしたところで、意味なんて無い。
私の数少ない知っている言語の中から、この大きな心の暗い塊は取り除けるはずがないからだ。