家出少女の反抗
「辛いんだな……。俺……どう言えばいいかわかんないけど……そんな経験俺もある」
怜音先生はそう言うと、そっと私を引き寄せて胸の中に抱きとめた。
「え?」といきつく暇もないくらいに、唐突に現れたその時間は、妙に夢心地で現実味がないように。
だけども怜音先生に触れるこの温もりは、暖かくて心がふと緩み、抱くことを止められなかった。
自然に手に力が入って、怜音先生の胸ぐらを軽く叩いては下ろし、叩いては下ろしの繰り返し。
嗚咽で言葉も回らなくなったそんな私を、見て変な声掛けをするわけでもなく、そっと頭をなでてくれたその優しさが心に沁みる。
「なんで?なんで私だけなの……?」
「何があったか分かんねぇけど……、人間誰しも常に笑って生きてる奴なんていねえと思う……。お前だけじゃない。ありきたりな事しか言えないけど……なんで自分だけって考えはやめておけ。そういう場合、悩んだって、答え出ねえし……自分を苦しめるだけだ」
怜音先生の胸に埋もれながら、しゃっくりが止まらない私の背中を卵を温めるかのように撫でた。
こうして撫でられたのは、いつぶりだろう。
私が幼稚園の頃、遠足で迷子になったあの頃ぐらいだ。
幼稚園の遠足のあの日、果汁園に出向いた時ふと蝶々の後を追ったら深い森に迷い込んでーー一人きりになったあの日だ。
3時間ぐらい涙を垂れ流して、幼いながら死を覚悟したあの日。