ゾンビ化した総長に溺愛されて始まる秘密の同居生活
 夜の20時過ぎ。ベッドからテレビのサブチャンネルを見ていた。南極の基地の近くをペンギンが歩いている様子だ。

「果林、入るぞ」

 いきなり父親が部屋に現れた。白い防護服を着ているのは変わらない。

「お父さん……」
「すまん。今から市役所に行ってくれないか? 送迎は手配してある」
「え?」

 いきなりの指示に私は目を丸くさせる。そしてあの計画がバレているのか? という考えが頭によぎる。

(まさかバレている? でもここにいなきゃ……私1人で脱走は嫌だ、多賀野くんも一緒にいないと……! 頭を動かせ、自分!)
「お父さん、その……」
「なんだ?」
「具合が悪いんだよね。明日でも良い?」
「……看護師を呼んでくる。どこが悪いんだ?」
「頭が痛い」

 父親はすぐに部屋から出て行った。しばらくしてさっきのベテランの女性を連れて来る。
 この頭痛は仮病だが、あながち仮病でもない。だってこんな展開、頭が追いつかないからだ。

「頭痛がするそうだ。果林、他に症状は?」
「ちょっと怠い……かも」
「熱があるかもしれません。体温測りましょう」
(37.0以上あればいいけど)

 私は微熱以上が出てくれば……と願いながら白い体温計を右脇下に挟む。
< 142 / 161 >

この作品をシェア

pagetop