ゾンビ化した総長に溺愛されて始まる秘密の同居生活
「そりゃあ、娘は大事に決まっているだろう。それに」
「多賀野くんがタイプヴァンパイアだから? 貴重な研究材料だから? 多賀野くんは私以外の血は吸っていない。それは研究所でも分かってるはずじゃん」
「……だが、こうして愛するゾンビと共に研究所を脱走した者がいるからこのような騒ぎになっているんだ」
「……え」

 私がどういう事かと父親に問い詰めるも、それ以上は話さなかった。

「ほら、早くこちらに来るんだ」
「……」

 左側の斜面が視界に入る。もしかしてさっきみたいに滑り落ちてくれたら、距離を稼げるのではないか?
 この事を私は勇人に小さく耳打ちする。そして勇人は私をお姫様抱っこしたまま、斜面にダイブした。

「果林!」

 父親も私が勇人と身投げするとは思ってもみなかったのだろう。私の名前を何度も叫ぶ。その間にも勇人は器用に崖を滑り落ちていく。

(麓が見えて来た……!)

 これはかなりの距離をショートカット出来たに違いない。
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