ゾンビ化した総長に溺愛されて始まる秘密の同居生活
「走って!」
「わかった……!」

 麓にあたる箇所の集落には人は見られない。しかし道路の看板にはこの先は県境になると記されているのが見える。私は勇人に県境まで走るように指示を出した。
 勇人はまだ息を切らしていない上に、走る速度も落ちてはいない。

「多賀野くん、まだまだ走れそう?」
「ああ、勿論」
「良かった……無理はしないでね!」
「ああ!」

 それからはずっと、ずっと……走り続けた。どれくらい勇人が走り続けたかも分からないくらいに走った。
 気がつけば遠い遠い場所まで辿り着いていた。父親はもう追ってきてはいない。きっと私はあの崖を勇人にお姫様抱っこされて飛び降りた事で死んだものだと捉えたのかもしれない。

(でもまた、来るかもしれない)

 今、私と勇人がいるのは山と海に囲まれた集落。家と田畑が点在していて、田畑は段々畑になっている。

「ここ、どこだろう……」

 私の呟きに呼応するかのように、目の前の大きな古民家のドアからピンク色の割烹着を着た白髪で癖毛なお婆さんがふらりと現れた。ぱっと見ゾンビでは無さそうだ。 

「君達、どうしたんだい?」
「あ……道に迷いまして」
「もしかして訳アリ? とりあえずうちに入る?」

 お婆さんは温かく私達を出迎えてくれた。
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